積みプラ戦記

コラム

No.7 オタクの友達

実を言うと、僕にはオタクの友達というかオタク趣味を共有できる友人がほとんどいない。皆無ではないが、オタク趣味も通じる普通の友人が僅かにいるのみだ。その友人ともオタク関連の行動を共にすることもこの数年ない。そして、その様な状況は今に始まったわけではなく自分がオタクの道を歩み始めた当初からあまり変わっていないのだ。そもそもオタク趣味の友達ってどうやって作ればいいのかわからない。

僕がオタク趣味に目覚めたのはいつだったか。どこにでもいる当たり前の男の子でしかなかった僕も、当然ながら幼少の頃は戦隊モノやウルトラマン、仮面ライダーなんかを見て育った。そして小学生の頃にガンダムを知った。ガンダムは僕にとってオタク趣味の最も主要ジャンルなので、ガンダムを主軸にして振り返ってみる。

当時はガン消しとかキン消しというのが流行っていて、男の子なら誰でも筆箱に一つやふたつ隠し持っていた。それに加え、ファミコンのガチャポン戦士やカードダスといったSDガンダム関連のグッズを、友達と一緒に遊んだり買いに行ったりすることが多かったので自然とガンダムに対する知識が付いていった。もちろん、この時にオタク友達などという概念はない。同じ友達と、ときに公園でサッカーをしたり、ときに家でファミコンのガンダムゲームをしてというだけだ。

この段階で一つ棲み分けと呼べる要素があるとしたら、SDガンダムのプラモデル「BB戦士」を友達と一緒に買いに行ったり作ったりしたという経験はない。もちろんおもちゃ屋には一緒に行ったことは何度もある。ミニ四駆が流行っていた時分だったので、主にそっちを買いに行っていた。僕自身はSDガンダムから、徐々にリアルタイプのガンプラへ移行して買い求めていったわけだが、ガンプラを友達と一緒に作ったという記憶はない。

当時子供たちの間で流行っていたのは他に、ビックリマンシール、ミニ四駆、ファミコンなどだ。そんな中でガンダムは、SDガンダム関連グッズをもって友達との共通の話題から外れてしまった。ガンダムの格好よさに惚れ込んだ僕は、友達の間で流行しているアイテムとは別に一人でガンプラを作り始めた。ただ、自分と同じようにガンダムが好きだった友達はいたようだ。学校の休み時間にガンダムの小説版を読んでる奴もいたし、家に遊びに行くとガンプラが棚にひっそりと飾られているのを見たこともあった。だが友達の間でガンダムが話題に上ることはほとんどなかった。

他の地域や、年齢が少し違うだけで取り巻く環境はガラリと違うのかもしれないが、僕の周りではガンダムは流行っていたんだか分からないうちに終焉してしまったらしい。それでもガンダムに執着している奴は、隠れファンとして個人的にこっそり楽しむ。そんな雰囲気だった。そして、僕自身も同じように自分一人で楽しむガンプラと、みんなで楽しむミニ四駆等の他のおもちゃとは完全に分けて楽しむことになった。

小学生から中学生になってもあまり状況は変わりなかった。友達との話題の中にガンダムは出てくることはない。ごくたまに単語レベルで出てきたことがあったかもしれないが、その程度だ。そして、この頃からガンプラのみならずプラモデル全般を購入することが妙に恥ずかしく思えてしまい、同級生には見られないように気を使いながら店に行っていた。誰もプラモが好きだと公言しないので、何か後ろめたい気分になってしまったのだ。

高校に進学すると中学生の時とは違い、広い通学圏内から人が集まる環境になったからか、クラスメートのバリエーションが増えた。そう、高校生の時に初めて明確にオタクな同級生が現れたのだ。小学生の時はオタクという定義すらないし、中学生の時は休み時間にお絵描きしているいかにもな女子がよくからかわれているのを見た程度だが、今回のは本物だ。そして、ちょうど高校生になってから親にパソコンを買ってもらったこともあり、パソコンのイロハを教えてもらうというきっかけでオタクの友達ができたのだ。実際は、パソコンのイロハというよりは各種のゲーム(特にエロゲー)をコピーしてくれたり、秋葉原にやっぱりエロゲーを買いに行ったりした程度なのだが、類は友を呼ぶというべきか最初は一人だったオタク友達だが、彼の友達も会話に加わるといった広がりを見せはじめていた。

僕にも、オタク友達がいた時期があった。それをこの記事を書いてて思い出した。だが、そのままオタク友達とグループ形成をするといったことにはならなかった。入学直後から仲良くなってできた友達グループがあって、僕がメインに所属しているのはそちらの方だった。誰もが知っていることだが、学校のグループには上下関係がある。スクールカーストというらしい。

自分が所属していたグループはおそらくだが、上位の方だった。オタクは当然下位の立場になるわけだから、僕にはオタク趣味があるとしても、オタクグループに入るつもりはなかったのは当然の事だった。僕が高校生の頃は、オタクに対する風当たりは強かった。コギャルが全盛期で、チーマーの誰々と友達だと自慢するのがステータスのような時代だった。

結局1年生の頃に少しだけオタクの友達がなんとなくいたけれど、それで終わり。ガンプラはやっぱり好きで、時々買っていたが表向きは微塵にも出さなかった。友達とは、バイクに乗ったり合コンに行ったり、格闘好きが集まっては殴り合ったりという生活をしつつも一人で秋葉原に行ってエロゲーやプラモを買ったりもしていたのだ。

そして大学生。一人暮らしを始めたことによってそれまでのタガが外れたのか、一気にオタク趣味を加速させた。住んでいたアパートの近所にホビーショップがあって買い物がしやすい環境だったことも大きかった。交友関係の希薄さも手伝って、好きにオタク趣味を楽しんでいた。プラモとプレステと、新しく買ったパソコンで始めたインターネット。予定がないときは、これらを思いっきり楽しもうとしていたわけだが、その一方で彼女を作ったり友達と遊びに行ったりと充実した大学生活も送りたいと思っていたので、最初は大学で飲みサークルに入って頑張り、その後はインターネットのチャットから交友関係を広げていったりしてガンプラは買いはするけど作らないという積んどくモデラーと化した。

チャットで広がった交友関係が一番オタク趣味の友達ができる可能性が高かったが、オタク趣味もある友人が一人だけできたに留まった。その友人との繋がりはメインはバイクだったので、ツーリングによく行っていた。大学時代からは、ことさらにオタク趣味があることを隠そうとはしなかった。だが、そっち方面がメインの友人は出来なかった。結局、オタク趣味を共有するというより、話のネタとして出すくらいの方向性で落ち着きを見せる。これだと、いわゆるオタクを理解できない、むしろ嫌悪感すら覚える人でも案外すんなりと受け入れてくれることが分かってきたというのもあった。

社会人になって以降も基本的なスタンスは大学時代と変わらなかった。金銭的に余裕が出たのでさらにオタク趣味への投資額が増え、モノは充実したが、オタク趣味を共有できる友人は会社の同期が一人。今までで一番オタク趣味関連で行動を共にする友人ができたのは、実はこの時だった。職場が変わり、私生活の環境も変わるとなかなか遊ぶ時間も取れなくなり、誰かとオタク趣味で行動することは無くなってしまった。それが今の状況だ。今も別にオタク趣味があることを隠していないけれど、職場で仲の良い人はどちらかというと元族だったり元コギャルだったり。

自分には、オタク趣味がメインの交友関係を築くことは出来なかった。オタク趣味も通じる友達を僅かに作ることができたに留まった。今の自分を取り巻く状況からして、僕は今後オタク趣味そのものを徐々に縮小させていくことになる。オタク趣味をこれ以上拡大させることもないし積極的に活動することもないので、おそらく交友関係が今より大幅に広がることもないだろう。今となっては拡大を望まない以上それで十分だと思うし、オタクとしては半端者の自分はオタク趣味を共有する友人とは無縁だったということだ。

一昔前に比べるとオタク趣味に対する風当たりは大分弱まってきたと思う。そうなった理由はいくつかあると思うが、端的にいえば未知から既知へと移行したのだと思う。テレビでオタクを見る機会が増えたことと、芸能人の中にもオタク趣味がある人がいてイメージがマイルドになった。オタクが徐々に市民権を得ていった背景にはそのような世間の認識の変化があったと考えられる。

ただし、ここで勘違いしてはならないことがある。それは、世間的に認知されつつあるといえどもオタク趣味は特殊であり、少しでも奇異に映れば嫌悪され排除される存在だということだ。これはその人の周辺環境によって相当差異があると思う。例えるなら、IT関連の環境と体育会系の環境ではオタク趣味の受け入れられやすさに差があるということだ。その辺を踏まえた上で、奇異に映るのではなくディープな人柄だと受け取ってもらえるなら、大抵の環境でオタク趣味があることを卑屈に思うことなく交友関係を広げられるのではないだろうか。

Last updated: Nov. 5 2015