積みプラ戦記

コラム

No.14 最強厨

いわゆる最強厨の話。

まず最初に、このコラムに登場する特殊な用語の意味について確認しておく。似たような言葉だが意味が異なるのでややこしい。なお、ここの用語については一応事前に調べた上で書いたが、もしかしたら間違いがあるかもしれない。だが、このコラムではこれらの言葉を以下で定義した意味合いで使用するのでご了承いただきたい。

○○厨という言葉は、いわゆる2ちゃんねる用語だ。
元々は厨房=中坊をあえて誤変換させたものであり、中学生のガキみたいで迷惑な人に対する蔑称だった。現在では、そこから少し意味合いが変化しており、○○中毒という意味を持っている。

最強厨とは、設定上の性能に取り憑かれ最強の機体こそが最高なのだと主張して止まない、最新・最強のマシンを追い求める使命を持った人のことである。

それから関連用語として挙げたいのが設定厨。設定とは基本的には作品の公式設定を指す。公式の設定資料、作品関係者の書籍、インタビュー記事を憲法のように敬い、そこから逸脱するような意見、感想は一切認めない人のことだ。

設定厨には別の意味もあるようだ。主に同人作家に該当するのだが、作品そのものよりも作品を支える設定の方に力を入れすぎた人を指す。もちろんしっかりとした設定は作品の深みを与えてくれる必要かつ重要なものであるが、作品そのものがペラペラなのに、世界設定ばかりが重厚なものを卑下してこのように言う。

さらに、「厨設定」や「厨性能」という言葉もあり意味合いが違うので要注意。これは本来の厨房=中坊の意味を踏襲している言い方で、いかにも中坊が考えそうな高性能、あるいはその設定を表す。周りとのバランスを欠くほどの高性能を示すことが多い。

ここからが本題。

僕も最強こそが最高と思っていた時期がある。とにかく設定上の強さを重視していた。それはまさに中学生から高校生の頃だった。

以前書いたコラムでも、僕はお気に入りガンダムを一つ決めて、同シリーズのMSをコレクションするのが僕の拘りだと書いた。お気に入り機体の選考基準として「出来の良い模型が発売されている」「格好良い」と並んで「最強設定」は重要なものだった。

具体例を挙げると、見た目は文句なしにゼータガンダムが一番好きなのだが、満足できるプラモやアクションフィギュアがあまりない。そして、設定上の性能ではV2アサルトバスターが最強らしい(U.C.上では)。でもV2の見た目は全然好きじゃない。でも設定上は最強。V2ガンダムのガンプラはそこそこいい感じ。さてどうしようってな具合に思い悩む。

自分の好きなガンダムは他のガンダムよりも優秀であってほしい、という願望と手元に置きたいコレクションの質の問題。この葛藤はずいぶん長い間、僕を悩ませてきた。

これは、ガンプラから始まった話ではない。思い返せばあらゆる事でこっちの方が強いだの速いだのと友達と言い争ったり、時には喧嘩にまで発展させていた。戦闘機が好きな者同士だったらF-14とF-15はどっちが強いかと言い争い、車が好きな者同士ならスカイラインGTRとスープラでどっちが早いかと言い争い、バイク好き同士なら・・・なんてな具合だ。

最強こそ最高。最強なら他が来ても言い負けない。と無意識に考えていたかはわからないが、あらゆるジャンルで男どもは最強という点にはこだわっていた。僕は一人で追いかけていたガンプラについても、同じようにその点に拘っていたのだ。

今でも、どこかのSNS上では元気にガンダムオタクが言い争っているはずだ。最強のMSはどれだとか、最強のパイロットは誰だとか。異論を唱える周りを盛大に攻撃しながら自論を展開しているのは、高校生くらいの子供だけではない。もしかしたら、いい歳したおっさんの方が多いかもしれない。とはいえ、これは仕方のないことかもしれない。何時だって、男はそんなことで競うのだ。前述したバイクや車にとどまらず、カメラやら釣竿だってそのネタになるのだから。

ところが、そんな諸元表大好き人間の僕だったがガンダムに関してはそこからひょいと脱却してしまった。

何かきっかけがあったかは覚えていない。ただ、上述したV2ガンダムの存在が僕に与えた影響は大きかったと思う。ユニバーサル・センチュリー(U.C.)最強設定の機体がどうにも好みじゃない。最強がいいのにこれはなんか嫌いだ、という悩める気持ちが爆発した。

何も無理して大して良いと思っていないものを最強だからと言う理由だけで一番にする必要ないんじゃないか?。ふとそう思った時、最強という括りに対する優先度は下がった。

最強厨であること辞めた。切り替えた途端に気持ちに余裕ができる。

人間、何かに縛られると視野が狭くなるものだ。今までは、性能が低いから大したことないと頭から除外していたMSにだって、よくみたらこれもなかなかいいなと思えてくる。なんやかんやでゼータガンダムが一番のお気に入りだったことは変わりなかったけれども、陸戦型ガンダムの重厚感とかハイゴックの機能に特化した美しさとか。そんなものに惹かれるようになった。

書いていてこの文章にオチがつくのか、不安になってきたが続けるとしよう。

最強の機体は何か?というネットで延々と繰り返される議論(というか罵り合い)についての現状を分析してみる。これを見ると、割と最強とかどうでもよくね?と思えてくるかもしれない。

ガンダムのような乗り物に乗って戦うお話では、機体の性能だけが最強の要素ではない。機体を操るパイロットの技能もとても重要なポイントなのである。そしてさらにガンダムでは、パイロットが持つオカルト能力が勝負の決め手になってしまうのだ。ガンダム世界ではニュータイプと言われる新人類の特殊能力のことだが、これがまたよくわからない。奇跡のパワーなのだからわからない。比較できる根拠は作品中で起こした奇跡と、監督をはじめとした製作陣のコメントのみなのである。

最強の機体は何か?というスレッドがいつまで経っても賑わっている理由がある程度は予想できるだろうか。機体性能は○○が最強だけど、パイロットのニュータイプ能力は○○が最強と監督が言っていた、などと延々とやっているのだ。

だが、この議論を全て停止させるカードが存在しており、それは広く知れ渡っている。

ターンエーガンダムが最強。多くのガンダムシリーズのはるか未来に登場し、文明を全て消し去る能力を有しており、ナノマシンによる自動修復機能を持っているそうな。ターンエーガンダム最強説は、概ね議論の余地がなさそうに思えるが、それでも異世界設定のSEEDや00のファンはストフリ最強とかクアンタ最強と噛み付いているようだ。このあたりまでくると自分の願望とか、ターンエーガンダムの見た目の悪さがどうしても許せないという気持ちが丸出しになった議論になっているので、見ている分には可笑しくなってしまう。最近では、ユニコーンガンダムも対抗馬に持ち出されている。ユニコーンガンダムにもオカルト要素が多いので引き出されたのだろうけど、一ファンとしてはそこに出してくれなくていいんだけれどもとは思っている。

ちなみに僕はターンエーガンダムがそこそこ好きである。もちろん最強という要素がバックボーンになった上での見た目も好きだ。例えるならガンダム世界における巨神兵みたいな存在だと思えるのだ。

そして、それぞれ別世界として存在しているSEEDや00のファンからしたら異世界から現れた巨神兵に自分の好きな最強MSを蹂躙された気分になるのかもしれない。気持ちはわからなくはない。

最強という観点を自分の贔屓のMSに求めるのはやめた方が良い、辛くなるだけだから。その言い争いが楽しいという武闘派は、白熱した議論を楽しんでほしい。ただまあ、他人の好きなものを論破して打ち砕いた結果、従属してくれるということはあまりないだろうとは思う。

Last updated: May. 5 2020